希少代謝疾患-ALD

X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)について

X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は、ペルオキシソーム(細胞小器官)による超長鎖脂肪酸(VLCFA)の代謝に必要となる重要なタンパク質をコードするABCD1遺伝子の変異によって引き起こされる、重度な身体障害を伴う希少神経代謝疾患です。  VLCFAの上昇は、脳と脊髄の両方で軸索の変性と脱髄を引き起こしますが、これには炎症とミトコンドリア機能障害の両方が関与していると考えられています。 また、ALDの病態生理は、Poxel社の2つの低分子プラットフォームである直接的AMPKアクチベーターと重水素修飾チアゾリジンジオン(dTZD)により効果がある可能性が考えられます。

ALDの病態には、副腎不全、脳性ALDC-ALD)、そして最もよくみられる副腎脊髄ニューロパチー(AMN)の病型が含まれており、一般的には青年期から成人期にかけて発症します。これらの重複する病型の発症・進行の相対的タイミングを下図に示します。 AMNは、脊髄の長管に加えて、より程度は低いですが末梢神経にも及ぶ慢性かつ進行性の遠位軸索障害を特徴としており、その結果、進行性の脚のこわばりや脱力感、歩行障害やバランス感覚の低下、失禁、感覚の喪失、痙性などを引き起こします。すべての男性のAMN患者にこのような症状が見られ、多くの女性患者にも、より後期発症で同様のAMNの症状が出現します。C-ALDは、脳内細胞の炎症性脱髄を特徴とし、一般的に小児が罹患しますが、男性のAMN患者の多くも大脳疾患を発症することがあり、これらの白質脳病変は重度の神経障害と死につながります。

ALD市場概要

ALDは最も一般的な白質ジストロフィーで、血友病と同等の有病率であり、一般人口の実に10,000人に1人がALDであると言われています[https://rarediseases.org]ALDを適応症として承認された医薬品はありません(随伴性副腎機能不全に対するグルココルチコイド補充療法を除く)。C-ALDが幼児期に発見された場合、造血幹細胞移植による治療が可能です。造血幹細胞移植は現在、C-ALDの初期段階に限られており、この方法は重篤な副作用が発現するリスクがあります。

臨床開発

ALDを対象として、PXL065PXL7702つの同一の第ⅡaPOCバイオマーカー試験が2022年初頭に開始される予定で、データは2022年末までに得られる見込みです。最初は、ALD の最大の亜型であるAMNの患者に焦点を当てます。本試験では、成人男性のAMN患者を登録し、PXL065およびPXL77012週間の投与による薬物動態、安全性および有効性を、血漿中の特徴的な疾患マーカーであるVLCFAの上昇への影響など、関連するバイオマーカーを用いて評価します。

PXL065

PXL065は、ALDの治療において、新しいアプローチを提供します。PXL065は、ピオグリタゾンのR-立体異性体(重水素修飾R-立体異性体)であり、その親分子は1999年から2型糖尿病の治療薬として上市されています。 ALDについては、dTZDが治療薬になり得る潜在的な根拠を示す文献が公表されています。まず、ピオグリタゾンは、古典的なALDモデルであるABCD1欠損マウスで高い有効性を示しました。加えて、別の系でピオグリタゾンは神経保護作用があることが示されています。また、ピオグリタゾンとPXL065(および他のdTZD)によって調節される主要な非ゲノム的メカニズムであるミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC)も、神経変性の標的となることが示唆されています。

以下に示す非臨床試験の結果は、PXL065とピオグリタゾンが患者由来の細胞で上昇したVLCFAレベルを正常化することを示しており、これには代償性トランスポーターABCD2の増加が関与している可能性があります。また、ABCD1マウスを用いたin vivoの試験において、PXL065は、血漿、脳および脊髄におけるVLCFAの上昇を大幅に抑制し、これらの効果は同用量の親化合物であるピオグリタゾンよりも大きいことが示されました。また、ABCD1欠損マウスにPXL065を反復投与したところ、神経組織や神経行動の改善が認められました。 

Minoryx社が最近発表した関連分子のレリグリタゾンの臨床結果も、dTZDおよびPXL065ALDに対する潜在的な有用性を裏付けるものであるとPoxel社は考えています。レリグリタゾンの試験では、主要評価項目は達成できなかったものの、以下のようにいくつかの有効性の兆候が認められました。しかし、PXL065とは異なり、レリグリタゾンは強力なPPARγアゴニストであり、体重増加と浮腫を生じさせます。PXL065は、PPARγ作用の抑制により、著しい体重増加や浮腫を回避するように設計されており、より高い有効性が期待できます。

PXL770

PXL770は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を直接活性化する新規の治療薬候補です。AMPKは、脂質代謝、グルコース恒常性および炎症の制御にかかわる複数の代謝経路の主要調整因子です。ALDにおけるAMPK活性化剤の検討は、動物とヒトの両方でAMPKと疾患との関連性を示す複数の公表されている知見を根拠としています(以下の図参照)。これらの観察結果に基づいて、PXL770 in vitro in vivo ALD モデルで評価しました(以下の図参照)。PXL770 は、患者由来の細胞における VLCFA レベルの上昇を抑制し、それに伴って代償性のABCD2 輸送体の発現が増加しました。ABCD1欠損マウスにPXL770を投与すると、脊髄や脳、血漿でのVLCFAの上昇が抑制されました(図示せず)。さらに、ABCD1欠損マウスにPXL770を反復投与したところ、神経の組織構造や神経行動に改善が見られたという実験結果もあります。