NASH
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)について
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、近年、急速に世界中で流行している代謝性肝疾患です。NASHの特徴は、肝臓に脂肪が蓄積し、その結果、炎症、細胞死、線維化を引き起こされることです。長期間にわたって無症状の場合がありますが、その間も病状は進行し、重度の障害や肝線維化を引き起こす可能性があり、最終的には肝不全や肝臓がんに至ることもあります。NASHの主なリスク因子は、インスリン抵抗性、肥満、血中脂質(コレステロールや中性脂肪など)の上昇および糖尿病などがあります。現在のところ、特定のNASHに対する治癒可能な治療方法は存在していません。
米国の国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabates and Digestive and Kidney Diseases)が実施した分析によると、肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、米国で最も患者数が多い肝疾患の一つであり、世界人口の約20%、および2型糖尿病の70%近くがNAFLDに罹患しているとされています。
NASHはNAFLDが重症化した肝疾患で、肝硬変や肝細胞がんまで進行することがあります。公開されている調査結果によると、NAFLD患者の約10~30%がNASHにも罹患しており、NASH患者の約40~50%が2型糖尿病を併発しています。
PXL065とPXL770は、いずれもNASHの治療に有用であることが期待されるファーストインクラスの新しい経口剤です。
PXL065:NASH治療の新しいアプローチ
PXL065は、NASHの治療において、新しいアプローチを提供します。 PXL065は、ピオグリタゾンのR-立体異性体(重水素修飾単一R-立体異性体)であり、その親分子であるピオグリタゾン(アクトス®)は、1999年から2型糖尿病の治療薬として上市されています。ピオグリタゾンは、体内で相互変換する鏡像分子(R-立体異性体とS-立体異性体)を同じ割合で含有する混合物です。他のチアゾリジンジオン系薬(TZD)と同様に、ピオグリタゾンはPPARγを活性化し、ミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC)の調節を含む非ゲノム的な作用も媒介します。
ピオグリタゾンに関しては、NASHを対象に数多くの第Ⅱ相および第Ⅳ相臨床試験が実施されており、肝繊維化の進行を抑制しつつ疾患の治療に寄与することが認められています。生検によりNASHの確定診断を受けている患者に対して、米国肝臓学会(Association for the Study of Liver Diseases:AASLD)と欧州肝臓学会(European Association for the Study of the Liver:EASL)による診療ガイドラインで推奨されている唯一の治療薬です。
しかしながら、体重増加、骨折、体液貯留(浮腫)などのPPARγ受容体の活性化が原因の副作用により、ピオグリタゾンの使用は制限されています。重水素で修飾したR-立体異性体であるPXL065は、ピオグリタゾンのS-立体異性体と関連していると考えられているPPARγ活性あるいは副作用をほとんどまたは全く認められていません。非臨床試験においてPXL065は、体重増加や体液貯留を引き起こすことなく、非ゲノム経路作用を介するNASHに対する効果を有することが確認されています。PXL065は、物質組成物としての知的財産権が保護される新規化学物質(NCE)です。
臨床開発 - PXL065
PXL065については、新薬承認を得るために505(b)(2)のレギュラトリー手順を利用して開発をすすめようとしています。この手順は治験依頼者が、近縁の参照分子(この場合はピオグリタゾン)の既存の公開データ(非臨床および臨床安全性を含む)を引用し、活用することを認めるFDAの迅速な新薬の承認申請経路です。
2020年9月、Poxel社は合理化された第Ⅱ相臨床試験(DESTINY1試験)を開始しました。当第Ⅱ相試験は、非肝硬変が生検で証明されたNASH患者を対象とした36週間の臨床試験で、少なくとも120人の患者を対象に、3用量のPXL065をプラセボと比較して評価します。この試験の結果は2022年の第3四半期に得らえる予定であり、第III相臨床試験で用いられる一つあるいは複数の用量を特定するために使用されます。
PLX065の第Ⅱ相臨床試験デザインは以下の通りです。
以前に実施されたPXL065の第Ⅰ相臨床試験プログラムは、安全性と薬物動態を評価するために、健康な被験者を対象とした複数の試験で構成されていました。当プログラムには、実薬対照としてピオグリタゾンも含まれていました。また、既知の代謝物の暴露について、同等の用量のPXL065およびピオグリタゾンの間で比較しました。
その結果に基づき、ピオグリタゾン45mgと同程度の R-ピオグリタゾン暴露をもたらすPXL065の用量と、その平衡状態に達するまでの投与日数を予測するための薬物動態モデルを確立しました。これらの薬物動態の結果および前臨床試験結果に関連するヒトでの薬物動態モデル・シミュレーションから、PXL065(1日約15mg)は、NASHに対してピオグリタゾンと同様の効果を有しつつ、体重増加や体液貯留などのPPARγ受容体関連の副作用の発現がより少ない可能性があることが示唆されました。第Ⅰ相臨床試験において、PXL065の忍容性は高く、重篤な有害事象は認められませんでした。
反復投与の第Ⅰ相臨床試験において薬物動態の評価を行った結果、以下の図のとおり、錠剤を用いた場合、PXL065の血漿中への曝露は最高用量である30mgまで用量に比例して増加しました。重水素によるR-ピオグリタゾン(R-pio)の安定化は、検討したすべての用量で確認されました。したがって、PPARγ活性を有するS-ステレオ異性体への曝露は最小限で、R-異性体への曝露は相対的に大きくなりました。
PXL770:NASH等の慢性代謝疾患の画期的な治療薬候補
PXL770は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を直接活性化する新規の治療薬候補です。AMPKは、細胞内の主要なエネルギーセンサーであり、運動やカロリー制限によって活性化され、栄養過多になると抑制されます。脂質代謝、グルコース恒常性および炎症の制御にかかわる複数の代謝経路の主要調整因子です。PXL770は、この代謝における中心的役割を担うAMPKを標的にすることで、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のような肝臓に影響する疾患や希少な代謝性疾患(副腎白質ジストロフィーなど)を含む幅広い慢性代謝疾患の適応症を検討する機会が与えられていると考えています。
AMPK酵素の直接的な活性化は、肝臓で発生する主な病態生理学的プロセスおよびNASHを引き起こす肝細胞の脂肪変性、炎症、風船様変性および肝線維化に対する利点をもたらすことにより、NASHの根本的な原因を治療できる可能性を有しています。
PXL770は、主要な細胞エネルギー代謝の調整因子を直接標的とするため、Poxel社はPXL770がNASHの治療薬として有望な位置づけにあると考えています。PXL770の臨床的有用性を示唆する複数の動物モデルを使用した前臨床試験結果と公表論文により、Poxel社はAMPKの活性化は肝臓損傷とNASHにつながる代謝・炎症経路おいて有益な役割を担う可能性を有すると考えています。これまでに行われた臨床試験および前臨床試験から、PXL770については以下のことが示唆されています:
- インスリン感受性の改善
- 脂肪肝の2つの主要原因であるデノボ脂質生成(DNL)と脂肪分解の阻害
- 肝・脂肪組織の炎症抑制
- 肝繊維症につながる複数の繊維形成経路の抑制
- 心血管リスク因子の減少
臨床開発 - PXL770
2020年10月に、Poxel社はPXL770の第Ⅱa相臨床試験の結果を発表しました。 STAMP-NAFLD試験は、糖尿病の有無にかかわらず、120名のNASHと推定される患者を対象とした12週間の無作為化プラセボ対照並行群間比較試験で、PXL770の3つの投与レジメンをプラセボと比較して評価しました。当試験では安全性と有効性が確認され、目標を達成しました。
PXL770 は、全般的に安全で良好な忍容性が認められました。各群で治療に起因する有害事象が発生した患者数はプラセボと同程度で、これらの事象は主に軽度から中等度のものでした。第Ⅱa相臨床試験で得られた安全性の結果は、PXL770の薬物動態・薬力学試験および第Ⅰ相臨床試験プログラムと一致しています。
PXL770 の肝脂肪量および肝酵素の減少効果に関しては、2型糖尿病を併発している患者において、より高い有効性が認められました。この観察結果は、高血糖を含む代謝異常の状態では、さまざまな組織における内因性のAMPK活性が低下することを示す文献と一致しています。さらに、2型糖尿病患者においては、血糖値(HbA1cおよび空腹時血糖値)の臨床的に有意な改善が認められました。
ヒトの疾患で研究された初の直接的AMPK活性化剤として、今回の結果は、重要な高リスクサブグループ(2型糖尿病患者)や他の慢性および希少な代謝性疾患を含むNASHにおける開発の推進を支持するものと考えています。
2020年6月、Poxel社はPXL770の第1b相薬物動態・薬力学試験試験の結果を発表しました。この試験では、インスリン抵抗性とNAFLDを有する12名の患者を対象に、PXL770の単一用量レベル(1日1回500mgを4週間投与)の効果を検討しました。比較のために、プラセボ投与を受けた4名の被験者も含まれています。PXL770 の DNL 抑制効果により、AMPK 標的への関与が示されました。また、この試験では、インスリン感受性のスコアや糖負荷試験時のグルコース濃度の改善など、その他の有効性の兆候も認められました。薬物動態プロファイルは、以前の第Ⅰ相臨床試験と同様でした。PXL770 の安全性と忍容性のプロファイルは良好であることが確認されました。
健常人被験者を対象とした以前の第Ⅰ相臨床試験では、PXL770の忍容性と有害事象のプロファイルは許容範囲内であることが確認されました。心電図を注意深く観察した結果、PXL770 は心臓の安全性の指標である QT 間隔の延長やその他の心電図パラメーターの変化を引き起こすことはありませんでした。PXL770 の薬物動態パラメーターは、1日1回の経口投与を予測するもので、検討された最高用量で飽和傾向を示す線形性を示しました。さらに、ロスバスタチンとの薬物相互作用試験では、好ましくない特定の薬物動態相互作用が生じる可能性は認められませんでした。
NASHにおけるPXL770のさらなる開発は、PXL770とPXL065の副腎白質ジストロフィーを対象とした第Ⅱa相臨床試験と、PXL065で進行中のDESTINY1第Ⅱ相臨床試験から得られる2022年のデータを待って検討する予定です。
併用療法
Poxel社は、NASHの病因の多様性を考えると、疾患の進行にかかわる複数の経路を標的にした併用アプローチが必要だと考えています。NASHを対象とするPoxel社の2つの主力品である、肝細胞の代謝過負荷を軽減するためにAMPKをアロステリックに活性化するPXL770と、肝臓の炎症と繊維化を防ぐ非ゲノム性のTZD駆動経路を介して機能するPXL065は、それぞれNASHの異なる経路を標的としており、承認された場合、併用療法に適していると考えています。現在、この2剤の併用療法、および2剤に加えて異なる作用機序を有し、さらなる効果または相乗効果を生むと考えられるその他の治療薬をあわせた併用療法を評価する前臨床試験を行っています。